一般建設業許可と特定建設業許可の財産要件の違い。要件と提出書類をまとめてみました。

建設業許可の財産要件とは

 建設業許可における財産要件とは、事業の経営安定性や資材・機械の購入、労働者の確保などの資金力があることを示す要件です。建設業許可に財産要件が設けられているのは、建設業が資材購入や労務費、機械の購入に多額の資金が必要であり、事業を安定的に継続するための十分な資金力(財産的基礎)が求められるからです。また、特定建設業許可においては、下請け業者を保護し、請負代金の不払いを防ぐ目的も大きいため、より厳しい要件が課せられています。 

 財産要件は一般建設業許可と特定建設業許可で異なります。一般建設業では「自己資本500万円以上」または「500万円以上の資金調達能力」または「直前5年間の継続した営業実績」のいずれかを満たすことが必要です。一方、特定建設業では「資本金2,000万円以上」などのより厳しい要件が課されます。

一般建設業許可の財産要件

 一般建設業許可の財産要件では、①直前の決算書で自己資本が500万円以上であること、または②銀行が発行する500万円以上の残高証明書などにより資金調達能力があることを証明する必要があります。資本金の額に要件はなく、会社設立直後の場合は資本金を500万円以上にするか、資金調達能力を証明する形で要件を満たせます。 

財産的基礎を証明する方法について(一般建設業許可)

 一般建設業許可の財産的基礎の要件を満たすには、以下のいずれかの方法で500万円以上の財産的基礎があることを証明します。 

自己資本が500万円以上あること

  • 法人(会社)の場合
    直前の決算書にある「純資産合計額」が500万円以上あることを証明します。
  • 個人事業主の場合
    期首資本金、事業主借勘定、事業主利益の合計から事業主貸勘定を控除した額(またはそれに引当金・準備金を加えた額)が500万円以上あることを証明します。
  • 新規設立の会社の場合
    創業時の貸借対照表や、設立時に資本金を500万円以上に設定したことを証明します。 

500万円以上の資金調達能力があること

  • 預金残高証明書
    申請時点(または申請から1ヶ月以内の日付)の預金残高証明書で、申請者名義の預金残高が500万円以上あることを証明します。
  • 融資可能証明書
    金融機関が発行する融資可能証明書で、申請者に対して500万円以上の融資が可能であることを証明します。

特定建設業許可について

 建設業許可の申請区分には一般建設業許可と特定建設業許可の2種類あります。ふたつの大きな違いは元請業者(発注者から直接工事を請け負う立場)として、下請業者に発注する金額の規模によって決まります。

 具体的には、工事1件につき4,500万円以上(建築一式工事の場合は7,000万円以上)の下請契約を締結する可能性がある場合は「特定建設業」許可が、それ未満の場合は「一般建設業」許可が必要となります。そのため特定建設業許可は、下請業者を保護するために、営業所技術者要件、財産的要件など一般建設業許可よりも厳しい許可要件が課せられています。

一般建設業許可と特定建設業許可の財産要件の違い

 一般建設業許可の財産要件は、「自己資本が500万円以上」か、「500万円以上の資金調達能力があること」のいずれかを満たすことですが、特定建設業許可では以下の要件を全て満たす必要があります。

①欠損比率・・・欠損の額が資本金の額の20%を超えていないこと

②流動比率・・・75%以上であること

③資本金の額・・・2,000万円以上であること

④自己資本(純資産)の額・・・4,000万円以上であること

 これらの要件を許可の申請時だけでなく、更新申請にも審査されるため、継続的に財務状況を保つことが必要になります。

各用語の意味と確認方法

①「欠損比率」
 建設業許可における「欠損比率」とは、申請直前の決算期において、法人の場合は欠損額が資本金額の20%を超えていないことを指します。計算式は[繰越利益剰余金の負の額(正の額に置換)-(資本剰余金+利益準備金+その他利益剰余金(準備金、積立金))÷資本金](法人の場合)で、この割合が20%以下である必要があります。欠損額が資本金の20%を超える場合、企業の経営が不安定と判断され、特定建設業許可は取得できません。

 確認方法は「貸借対照表」、「繰越利益剰余金」、計算式に当てはめて確認します。「繰越利益剰余金」がプラスの場合は欠損比率の要件を満たしており、マイナスの場合はマイナスの場合は、マイナスの金額が資本剰余金、利益準備金、任意積立金の合計額を上回っているか確認します。

・「欠損額」
 「欠損額」とは、貸借対照表上のマイナスの繰越利益剰余金が、資本剰余金、利益準備金、その他利益剰余金(繰越利益剰余金を除く)の合計額を上回った場合に、その超過した額を指します。

・「繰越利益剰余金」
 建設業許可における「繰越利益剰余金」とは、会社の過去からの利益を積み重ねて、当期の利益を加えて算出された「過去の利益の累計額」を指します。

・「資本剰余金」
 建設業許可における「資本剰余金」とは株主からの出資金から「資本金」や「資本準備金」に充当されなかった部分、あるいは自己株式の処分などにより生じた剰余金を指します。

・「利益準備金」
 建設業許可における「利益準備金」とは、会社法によって株主への配当時に積み立てが義務付けられている利益剰余金の一種で、会社の財務基盤を強化し債権者を保護する目的があります。建設業許可申請における財産要件の「利益準備金」という項目は存在せず、建設業許可申請時に必要となる資金要件は「自己資本」の額であり、その中に利益準備金は含まれます

・「任意積立金」
 建設業許可における「任意積立金」は、建設業者が自己資本を強化するために、会社の利益の一部を留保して積み立てることです。

②「流動比率」
 特定建設業の許可要件である流動比率とは、「流動資産(1年以内に現金化できる資産)を流動負債(1年以内に支払うべき負債)で割った割合」のことで、75%以上であることが必要です。この数値は企業の短期的な安全性を表す指標です。直前決算期の貸借対照表で確認することができます。

③「資本金」
 特定建設業許可の財産要件における資本金とは、法人の出資額や払込資本金、個人の場合は期首資本金のことを指します。法人が申請時に資本金不足でも、申請日までに増資すれば要件を満たせる場合がありますが、その取り扱いは都道府県によって異なるため、事前に確認が必要です。法人の場合は直近の決算書「貸借対照表」や、「履歴事項全部証明書(登記簿謄本)」で確認することができます。

④「自己資本(純資産)」
 特定建設業の許可申請における自己資本とは、法人の場合は決算書で確認できる「純資産合計」の金額を指します。これは返済義務のない資産のことであり、「資産 − 負債」で計算されます。直前の確定した決算書における貸借対照表の「純資産合計」の金額で確認します。

 尚、自己資本と資本金の違いは、自己資本は返済義務のない会社のお金の総称で、資本金は自己資本の一部です。自己資本は、株主からの出資金である「資本金」と、利益の蓄積である「利益剰余金」などで構成される貸借対照表の純資産を指します。一方、資本金は法人設立時に株主から出資された資金であり、その額は増資などがない限り、会社の経済活動で変動することがないという違いがあります。

財産的基礎を証明する方法について(特定建設業許可)

 特定建設業許可において財産要件を証明する書類として「直近の決算で作成された貸借対照表」が必要になります。注意点として特定建設業許可では、一般建設業許可で認められる預金残高証明書や融資証明書は財産要件を証明する書類として使用できません。 

まとめ

 以上になります。特定建設業許可の財産要件が一般建設業許可と比較して厳しく設定されているのは、下請業者の保護のためです。特定建設業許可業者は下請け業者に対して多額の請負金額で工事を発注する元請けの立場にあるため、不景気などで経営が悪化しても下請け業者に工事代金が支払われなくなる事態を防ぐ必要があります。そのため、財産的にも安定していることを証明する要件が一般建設業許可よりも厳しく設定されています。

 尚、財産要件を満たさない建設業者は更新許可を受けることができません。そのため特定建設業許可業者は許可維持を維持するために定期的に財務状況を確認する必要となります。特定建設業の財産要件についてご不明点があれば行政書士小川真裕事務所までお気軽にお問い合わせください。

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